空色図鑑 ―小噺 忍者ブログ

空色図鑑

行き当たりばったりすぎて常に道を迷っている

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金やん誕生日SS(仮)【金王だよ!】

誕生日というものは、普段と違って何かと騒がしいものだ
すでに年齢的に祝われることに恥ずかしさを感じるときもあるが、だからといって嫌な気はしない。
そのせいか、おざなりな対応をしないでいた為、準備室へ戻ってこれたことにはすでにクタクタになっていた。
項垂れながら扉を開けると、ふわりとコーヒーの香りと王崎の笑顔に出迎えられた。

「先生、お疲れさまです」
「王崎、来てたのか」
「はい。コーヒーの準備もしておきました」
「そうか、ありがとさん」

穏やかに笑う王崎を癒されながら、扉を締めて準備室へ足を踏み入れた。
そんな疲れ顔の金澤を見守りながら、用意していたコーヒーをカップへ注ぐ。
それ手にしたまま、そっと金澤の傍へ寄り添う。

「はい、どうぞ」
「おう」

手渡されたコーヒーを一口に含んで、その暖かさにほっと息をつく。
沢山の祝福を受けることは嬉しくもあるが、あまり騒がしいのは好まない。
出来ることなら、傍にいても安心できる相手と共にゆっくりと時を過ごしたい。
そう思って傍らへ視線を向ければ、それに気づいた王崎が嬉しそうに笑っている。

「そうだ、おれも先生にあげたいものがあるんですよ」
「ほう?なんだ」

王崎の言葉に興味を惹かれ、少しだけ胸が踊る。
すでに沢山のプレゼントはもらったが、折角なら王崎からももらいたい。

「そのために…あの、少しだけ屈んでもらえますか?」
「こうか?」

指示に従うように少しだけ身を屈めると、傍にいた王崎がさらに身体を寄せてきた。
どこか楽しげに笑いながら、金澤の耳元へ王崎の唇を近づく。

「お誕生日、おめでとうございます」

可愛らしい囁く声とともに、頬にちゅっと柔らかな感触が触れた。
それから僅かに顔を離し、王崎が少し恥ずかしそうに笑う。

「やっと言えた」

その口づけの感触と擽ったそうに笑う王崎に、金澤の顔にも笑みが零れる。

「随分と可愛らしいプレゼントだな」
「喜んでもらえました?」
「あぁ、嬉しいよ」
「良かった。ちゃんとプレゼントは別に買ってありますから、楽しみにしててくださいね」
「夜のお楽しみってことか?」
「はい」

約束を取り付けていたわけではなかったが、この会話からすると王崎は夜も一緒にいてくれるらしい。
そのことが嬉しくて、同時に自らも王崎に触れたくなった。
コーヒーを机に置いて、目の前にいる王崎へそっと手を伸ばす。
その肩を引き寄せ、そっと腕の中へ閉じ込める。

「でもどうせなら、頬じゃなくて別な場所にも欲しいんだが…」
「今ですか…?」
「勿論」
「もう、しょうがないな。なら、もう一度屈んでください」
「ん…こうか?」

腕に王崎を出したまま、少しだけ身体を屈めてそっと瞳を閉じる。
そんな金澤に困ったように笑いながら、その頬へ手を添えた。
そして微かにコーヒーの香りがする唇へ、自身のそれを近づける。

「大好きですよ、紘人さん」

甘い囁きと一緒に、王崎の唇が柔らかに触れた。
その感触を味わいながら、改めて愛されている幸福に満たされていく。

こんな風に祝福されるなら、誕生日も悪くない。

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【大律】なみだ

その優しさに、その温もりに包まれているとき
言い知れぬ不安が、喉元に絡みついて息ができなくなる

「律、なんで泣いているの?」

ふわりと触れる大地の手が、頬を濡らす雫に拭っていく。
その手が暖かくて、とても安心するのに、胸が苦しくなる

「わからない」

どうして、こんなにも苦しいんだろう
大地とともにいることは、とても幸福なはずなのに
胸の奥からこみ上げる不安が、涙となって瞳から溢れていく

いつか、この手は自分ではない誰かに伸ばされるときがきたら・・・
そのとき、俺はどうなってしまうのだろうか
笑って手を離してやれるのだろうか・・・

この手を愛しいと思うと同時に、消えてしまう日が来ることが今はとても怖い

「泣かないで、律」

涙に触れる大地の表情が、苦しげに歪む。
大地の心を悲しませていることは、苦しい。けれど涙が止まらない。
そっと腕の中へ抱き寄せられ、大地の手が優しく髪を撫でていく

「おまえに泣かれると、どうしていいのかわからなくなるんだ」

苦悩を滲ませた声が、胸に突き刺さる。
こんな表情をさせたいわけじゃないのに。どうして、こんなにも怖いのだろう

「傍にいるのに泣かれたら、俺はどうすればいいんだ」

違う。大地は悪くない。悪いのは、自分。
この温もりを、優しさをなによりも愛しいと思うのに
気持ちが募れば募るほどに、失うことが怖くてたまらない。
大地がいなくなる日を思うだけで、足が竦んで動けなくなる。

すべては、自分が弱いせいなのだから

「ねぇ、律。俺は、おまえを安心させてもやれないのか?」
「違う。大地が・・・大地でなければ、いやだ」

大地でなければ、こんな風に心を不安に揺らされることもない
ただ音楽で満たされた世界から連れ出してくれた、この手が傍にあって
同時になくなってしまうことを思うと、怖くてまた涙が零れていく

「頼むから、もう少しだけ・・・こうしていてくれないか」
「律・・・?」

もう少し、もう少しだけ、この温もりに甘えることを許して欲しかった。
涙をすべて枯れさせて、弱さを押し殺して、
笑ってこの手を離せるようになるから。

今だけは、叫べぬ声の代わりに涙を流すことを、許して・・・


*  *  *

「律・・・」

涙の枯れた頬に触れながら、閉じた瞳に唇で触れる
弱々しく握られた手をそっと握り返せば、一瞬手がビクつき、少しだけ力が強まった

「俺は、いなくなったりしないよ」

怯えながらも握り返す手が切なくて、胸が締め付けられる
この手は何を怯えているのか。”それ”がなにかはわかっているけれど
どうしてやることが律の救いになるのか、踏み込みかねている。

「俺はどこにいかない。だって、おまえが好きだから」

誰よりも愛しいのに、どうしたらその心を満たしてやれるのだろうか
笑って欲しいと願うのに、傍にいることでその心を苦しめているのか
優しく触れて、温もりで包んでやりたいのに、その涙が手を迷わせる

「お願いだから、俺を信じて・・・」

その心が抱える不安ごと、すべてを受け止めてみせるから
無理に笑ったり、堪える必要のないくらいに、強くなってみせるから

「好きだよ・・・」

この手が愛しくて、切なくて、苦しくて
募る想いが繋がりあえない寂しさに、淡く視界が歪ませていく・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
好きだけど苦しくて、愛しくて切なくて、誰よりも好きなきみのこと

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【桜帯】ポッキーゲーム【途中】

※まだ途中だよ
※どこまで続くかも謎だよ

以上を前提でどうぞ( ^ω^)

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お題やってみた

【お題:金やんがショタ王崎を膝の上に座らせてみたら、『お菓子食べるから下ろして』と言われた。『ここで食べればいいじゃん』と言ったら、小さく頷いてお菓子を食べはじめた。おやつの時間だったらしい。】 

金澤×ショタ王崎だよ(・ω・)
 
*******************************

「こら、どこへいく」
隣に座っていた信武の小さな身体が突然ソファーから降りたかと思えば、そのままどこかへ歩いて行こうとするので、慌ててシャツを掴んで引きとめた。
その制止にイヤイヤと身じろぐのを気にも留めず、脇の下に両手を差し入れ抱き上げた。そのまま無理やり膝の上に座らせる。
「ねぇ、下ろして」
「駄目。ここで大人しくしてなさい」
「おやつが食べたいから下ろして」
「ここで食べればいいだろ」
どうやらおやつが食べたくて、どこかへ行こうとしたらしい。
「だって、汚れちゃうから」
「別にそんくらい気にしないっつうの」
そもそも自分ですら、ソファーに座ったまま酒を飲んだりしているのだ。今更菓子のカスくらい気にはならないし、目立つようなら掃除すれば済むことだ。
「だからどこへも行かず、ここで食べろ。な?」
そう宥めるように髪をポンポンと撫でてやると納得したようで、信武が小さくうなずいた。
肩から提げていた花型のポシェットを開け、手を中へ差し入れがさごそ。それかすぐに包み紙に包まれたクッキーらしきものをふたつ、鞄から取り出した。
それを嬉しそうに包みを解き、そのまま食べるのかと思いきや、こちらへ差し出した
「なんだ?くれるのか?」
「うん。一緒に食べよう」
にっこりと笑いながら差し出された菓子を受け取ると、今度は自分の分の包みを開け始めた。
包みを外したクッキーを嬉しそうに眺め、ぱくりと口に頬張る。
途端、その表情が幸福を満ちたものに変わる。
「おいしいか?」
「うん!ひろとさんも一緒に食べよう」
幸せそうに笑う小さな恋人に誘われるまま、受け取った菓子に口へと運んだ。
 
たまにはこんな休日を送るのも、悪くないかもしれない…

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心音(金王)

暖かいシーツに包まりながら迎える朝
ゆっくりと瞳を開いて見えるのは、傍らで穏やかな寝息を立てる青年のあどけない寝顔
瞳を伏せた状態では、普段の大人びた雰囲気を感じられない
近くで温もりを感じたくて、起こさぬようにそっと抱き寄せる。

「…んっ…」

手が触れた感触に擽ったそうに身体を身じろいだが、すぐに元の寝息が聞こえてくる。
腕に感じる柔らかな体温は春の陽だまりに似ていて、微睡んでいたくなる。
触れった部分から優しく暖かいそれがゆっくりと心の奥まで沁み込んで、じんわりと胸が暖かくなる。
それと同時に、身体の中から力が抜けていくのがわかる。
不安も痛みも、疑心さえもこの温もりは包み込んで、自然と安堵する。
何も疑うことなく、恐れることもなく、真っ白で素直な自分がそこにいる。

もっと触れたくて、もっと彼を感じたくて、その胸に顔を埋めた。
トクン、トクン…と穏やかに脈打つ心音が聞こえてくる、
この温もりが限りなく自分とは違う存在で、けれど今限りなく自分に近い存在で
自分と違う時間を生きているこの音は、今同じ時を刻んでいる。
出来ることなら、もっと長い時を刻んでほしいと思う。
そしてその限りある時の中を、自分と共に重ねていってほしいと願う。

この心音の傍にあるものが、ずっと自分であればいいと…

瞳を閉じて心音に微睡んでいると、ふいに頭を抱きこまれた。
そして、擽ったそうに笑う声。

「…ふふっ」
「なんだ、起きてたのか?」
「うん。でも抱きしめてくれる腕が暖かくて、そのまま寝ちゃおうとしたんだけど」

そこで言葉を切って、またくすくすと笑いだす

「先生が珍しく甘えてくるのが嬉しくて、そのままにしてた」
「悪かったな」
「どうして?おれは可愛いなって思ったけど」
「お前さんな、10も年上の男を捕まえて可愛いはないだろう…」
「だって本当にそう感じたから…」

可愛い…と嬉しそうに囁きながら、髪を撫でられ抱きしめられる。
10も年下の彼に甘やかされている状況に、恥ずかしさと情けなさから思わずため息をつく。
それでも離しがたくて、誤魔化す様にその温もりの中に顔を隠した。
この温もりの前では、嘘も意地も、年上としての威厳も通じない。
あるのはただふたり分の心音と、柔らかな温もりだけ。

「もういい…寝る」

何を言っても、彼には勝てそうにない。
それなら素直に甘く微睡んだまま、何もかも忘れて眠ってしまいたい。
このまま眠りに落ちたら、心地良い夢を見られそうだ。

「おやすみなさい」

穏やかな声とともに、額に柔かな感触が触れる。
キスをされたのだと気付いたが、瞳を開くのも億劫でそのままにした。
トクン、トクン…と穏やかに刻む心音に導かれるように、ゆっくりと眠りへ落ちていく。

この音が刻まれる限りある時間の中で、彼とどれだけ一緒にいられるのだろうか
少しでも長く、傍にいられると願わずにはいられない。

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もえすぎワロタ

※モバイルコルダのネタバレだよ
金澤×王崎だよ

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ハグの日

「律、今日はハグの日だよ」

突然そう言ってきた彼に、いつかのことを思い出したのは言うまでもなく。

「…おまえはどうしてそういう情報ばかり知っているんだ?」
「え?普通だよ」
「以前、キスの日のときも同じようなことを言われた覚えがあるのだが?」
「あれ?覚えてたんだ」

そう言っておかしそうに笑う大地に、思わずため息を零した。
以前も「キスの日」だと突然言い出し、キスを強請られた。
強請った割には結局、強引にされたわけだが。
今日もこの流れではまた同じことになるような気がする。

「まぁ、いいじゃない。それに今日はハグの日だからっ」
「わかった」
「え?」

大地が言葉を言い終えるより早くその傍らに近づき、正面から彼の首へ腕を回した。
そのままぎゅっと抱きしめると、シャツ越しに大地の体温が伝わってくる。
エアコンの効いた部屋にいるせいか、冷えた身体にはその体温が心地いい。

「り、律?」
「おまえが抱き締めろと言ったんだぞ?」
「言ったけど、まさか律からしてくれるとは思わなかったよ」

前回は大地に先手を打たれてしまったから、今度は先に動くことにした。
決してこうした触れ合いがイヤなわけではない。大地と触れ合うのは好きだと思う。
わざわざ理由をつける必要も、本当はないと彼もわかっているはずだ。
けれど、こうして強請れるのも嫌ではない。

「おれから触れたのが不満か?」
「まさか…」

耳元に笑い声が聞こえてくる。そして、大地の長い腕が背中へと回された。
さらにぎゅっと身体を密着させるように、強く引き寄せられる。

「うれしいよ、律」
「っ…」

そう甘く蕩けそう声で囁く大地に、触れ合って得た熱は違う熱さが頬に灯る。
それが少しだけ恥ずかしく感じ、少しだけ顔を逸らした。
しかし僅かにはねた心音で、きっと彼にはばれているのだろう。
”かわいい…”と甘く囁きながら、嬉しそうに髪を撫でている。
僅かに悔しさも感じたが、撫でる手の心地良さに流すことにした。

ハグにしても、キスにしても。
そういった理由をつけて強請る彼の方が、かわいいと思ったことは
今だけは内緒にしておこう。

******************************
ハグの日記念^^

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雨の日

「うぅ…」

その日は珍しく、大地が一人呻いていた。

「どうした、大地?どこか具合でも悪いのか?」

部室の机に突っ伏したまま、呻いている姿を見れば誰でも気になってしまう。
こちらの声に気付いた大地は、また珍しく酷く落ち込んだ表情をこちらへ向けた。
こちらの姿を見るやいなや、「律ぅ…」とまた情けない声で大地が発する。
今日は随分と珍しい光景ばかり見ているな。

「どうした?やはりどこか具合が…」
「具合は悪くないよ。一応医者の卵だし、その辺は大丈夫」
「そうか。なら一体…?」
「ちょっと聞いてくれないか?」

机に両ひじをつき、組んだ手を顎を乗せたまま、盛大なため息を零す。
具合が悪くないのなら、一体何があったというのだろう。

「今日雨だろ」
「そうだな。梅雨に入ったと朝テレビで言っていた」
「そう梅雨…俺の一番苦手な季節なんだ」
「なぜだ?確かに雨が降っていると何かと不便ではあるが・・・」
「不便もなにも、支障ばかりだよ」

そう言ってまた大地が溜息を零す。
確かに雨が降っていると外出するにも手間がかかり、不便ではある。
特に弦楽器は湿気は大敵だから、この時期はメンテナンスも気が抜けない。
だが、こんなにまで落ち込むほどのものだろうか…?まだよくわからない

「何がそんなに困るんだ?」
「あぁそうか…律は平気そうだもんな」
「…何がだ?」

言葉の意味が分からず首を傾げていると、また大きなため息が聞こえてくる。

「俺の髪、癖っ毛だろ?」
「そうだな」
「これでも色々セットしたりしているんだけど、雨の日はそれがままならない。
それが嫌なんだっ!」
「…え?髪?」

大地から聞こえた意外な答えに、思わず目を丸くしてしまう。

「そう髪!雨の日はいくらセットしてもうまくいかなくてさ…。すごい落ち込むんだ」
「…今まで呻いていたのは、髪型のせいでなのか?」
「そうだよ。これでも気にしてるんだ。別にこの癖っ毛は嫌いじゃないんだけど、こういうときはホント困る。今日はうまくセットできたかな~と思うと、すぐに乱れちゃうしさ」

余程嫌なのか、くしゃりと自分の髪をかきながらまた大地が溜息をついた。
身なりを気にするのは良いことだと思う。傍で見ていても、きちんと整っている方が気持ちがいい。
しかし、大地が気にするほど普段と髪型が違うのかと聞かれると、こちらからわからない。
だが当人からすると、とても大きな問題であることは良く理解できた。

「そんなに気にする必要はないんじゃないか?俺には違いがわからない」
「えぇ…そうかな。でもなんか、格好がつかないというか」
「そうだろうか?」

自身の髪を掻き毟る大地の手を止めさせ、そっと下ろさせる。
こんなことをしていたら、本当に乱れてしまいそうだ。
代わりにその髪へそっと手を伸ばし、少し乱れてしまった髪を優しく手櫛をかけた。
ふわりとカーブした髪が、するりと指の合間から逃げていく。

「どんな髪型であっても、大地が大地であることには変わりない」
「…そうだけどさ」
「それに、俺はこの髪が好きだよ。ふわふわと柔らかくて、どこか暖かい。おまえらしい髪だ、大地」
「律…」

確かに癖づいているが、決して指に絡まることはない。
きちんと手入れがされているせいか、こうして触れていて心地が良い。
彼の嫌う癖は、寧ろふわふわとした柔らかく感じられて、とても大地らしくて思えた。
そうして撫でているうちにもっと触れたくなって、その髪をそっと腕の中へ抱き寄せた。
髪に頬を寄せると、その柔らかな感触が少しくすぐったく感じられた。

「え、ちょっ…律?」
「俺はこの髪が好きだよ…だから、あまり嫌わないでやってくれないか?」
「…律がそう言うなら」

そう言って聞こえてきたため息は、先ほどとは違い安堵を含んだものだった。
そのまま大地の腕がするりと背中へ回り、甘えるように身体を寄せてきたので、あやす様にまた髪を撫でた。
髪型ひとつでここまで取り乱してしまうなんて、少しだけ大地が可愛いと思えた。

どんな髪型であっても、大地が大地であることには変わりはない。
大地が大地であるなら、それだけで十分。

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キスの日

「律、知ってる?今日はキスの日なんだよ」

突然、大地がそんなことを言いだした。

「…キスの日?」
「そう。今日は日本で初めてキスシーンのある映画が放映された日だから、”キスの日”なんだって」
「よく知ってるな」
「まぁね」

どこか嬉しそうに微笑みながら、隣に座っていた大地がぐっとこちらへと近づいてくる。
近づいた大地の頬笑みが、夕焼けに染まってより柔らかな印象を受けた。
放課後の部室には、他には誰もいない。

「だから…」
「だから?」

大地の唇に、意地悪げな微笑んでいる。
この笑みは、良く知っている。何かを企んでいるときの見せるものだ。
笑みに視線を奪われている間に、大地の指がこちらの唇へと伸ばされる。

「キスしよう、律」

言葉と同時に長い指が唇に触れ、つぅ…と誘うように撫でていく。
一瞬、感触と言葉の意味がすぐ飲み込めず、思わず茫然としてしまう。
だがそれもすぐに飲み込め、代わりに呆れのため息で答えた。

「前置きが長い」
「そう?でも嘘はいってないよ。それに不意にすると、律は怒るじゃないか」
「不意にされるのは心臓に悪いと言っただけだ」
「だから、こうやって許可取ってるんだけど?」
「聞けばよいというものでもないだろう。それに大地、ここは部室だ」
「でも、誰もいないよ。今は律とふたりっきり。何か問題はあるかい?」
「しかし…」
「俺は律とキスがしたい。今したいんだ」

いつの間にか、唇に触れていた手が肩を掴まれていて逃げられなくなっている。
更に大地がこちらへ身体を寄せて、吐息が感じられる距離に顔を近づけた。
真っ直ぐにこちらを見つめる碧の瞳に、思わず一瞬息が止まる。

「キスしよう、律」
「大地っ…」
「目、閉じて?」

口元は笑っているのに、その眼差しには決して逃げることはできない。
大地に触れられている部分が酷く熱い。鼓動が高まっていくのが止められない。
さらに近づいてくる体温と眼差しに耐えきれず、言われるまま目を閉じた。
ふぅ…と吐息が唇にかかって、僅かに身体が震えた。

「…律、可愛い」

その反応に大地が笑ったような気がして、何か言いかえそうかとした。
しかし言葉より先に大地の唇が重ねられて、それも叶わなかった。

最初はそっと触れ合わせるだけのキス。一度僅かに離し、角度を変えてもう一度キス。
時間にしては僅かの間だったのかもしれないが、そのときはとても長く感じられた。
唇から伝わる体温が心地よくて、もう少し触れていたいと思っていたからそう感じたのかもしれない。

キスを終えて開けた視線の先には、大地が完全に頬を緩ませて満面の笑みを浮かべていた。
本当は少し文句を言いたい気持ちもあったのだが、そんな笑みを見えては言えるはずもなく。仕方がない、と微笑んで返すしかなかった。

偶にはこんな日があっても、悪くないのかもしれない。

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蒼々と

「律の髪、綺麗だよね」

さらさらと指の合間を滑り落ちていく、真っ直ぐな深蒼の髪。
今日は珍しく寝ぐせがついていて、部室の椅子に座らせ、こうして触れながら真っ直ぐに直してあげている。
こんなに綺麗な髪なのに、その持ち主は一切興味がないのだから勿体ない。
律の髪は同性から見ても、その流れるような美しさについ見惚れてしまう。

「そうか?」
「うん。律は肌も白いし、女子から羨ましがられない?」
「いや、言われたことはないな」

実際そう思っていても、律の威厳的な雰囲気に声をかけにくいのだろう。
顔立ちだって容姿端麗。一度目にしたら忘れることが出来ないと思う程に。
律が女性だったら、きっと世の男性たちは放っておかないだろう。
男性であったとしても、放っておけない男がここにひとりいるわけだが…。

「ところで、まだ直らないのか?」
「もう少し。もう少しだけじっとしていて」

ずっと髪を弄られることに耐えられなくなったのか、律が少し戸惑ったような声をあげる。
本当はもう整っているのだけど、もう少し触れていたくて思わず嘘をついた。
いつもなら、こんな風に触れ合うことを中々許してくれないから、尚更惜しくなる。
さらさらと指から逃げていく感触さえ愛しくて、思わずその髪に口付ける。勿論、律は気付かない。

ふと、髪の合間から律の白い項が見えた。
陽に晒されることないそこは真雪のように白く柔らかで、思わず息を飲んだ。
触れたい衝動に突き動かされるまま、その真雪に唇で触れる。

「ッ…!」

途端、律の肩がビクリと跳ねた。
それに構わず、啄ばむように項に触れていく。

「だ、大地…何をっ」

唇の感触に抗うように、律が暴れ出すのを後ろから抱きしめて抑え込む。
それでも逃げようとするから、その項を甘く噛みついた。
その感触に、僅かに上ずった声をあげて律の動きが止まる。

「大地…」
「…ごめん」

静かな怒りを含んだ声で呼ばれて、ハッと我に帰る。
それでも律から離れるのが嫌で、項から唇を離して、ぎゅっとその身体を抱き締めた。

「律のこと見てたら…つい」
「校内ではこういったことは控えてほしいと言ったはずだが?」
「だからごめん。俺も最初はそのつもりなかったんだって。律…怒ってる?」

恐る恐る肩越しに律の方へ視線を向けると同時に、律またこちらへ振り返った。
その視線は少し怒っているようにも見えたが、こちらの顔を見るなり呆れたようにため息を零された。

「そんな顔されたら、怒るに怒れない」

もういい…と諦めたように再度溜息をついて、それ以上責められることはなかった。
「次から注意してくれ」と小さくそれだけ呟いて、プイッと顔を逸らされる。
それでも腕から逃げようとしない律に、思わず笑みが零れる。

「許してくれるんだ」
「今回だけだ。次同じことをしたら、今度は怒る」

髪から覗く律の耳が、微かに紅い。
触れ合うのが嫌なわけではないのは知っている。ただ、恥ずかしがりやなだけ。
髪も容姿も、その肌や声さえ美しいのに、その中身はまだ触れ合うことに慣れずとても可愛らしい。

「うん、気をつける。…でも、何もしない自信はないなぁ…」

その言葉に律が怪訝そうな表情で見上げるのに、ふわりと甘く微笑んで応えた。

「こんなに可愛い律に触れないなんて、勿体なくて出来ないよ」

途端、とても呆れたようにため息をつかれたことは言うまでもない。

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