暖かいシーツに包まりながら迎える朝
ゆっくりと瞳を開いて見えるのは、傍らで穏やかな寝息を立てる青年のあどけない寝顔
瞳を伏せた状態では、普段の大人びた雰囲気を感じられない
近くで温もりを感じたくて、起こさぬようにそっと抱き寄せる。
「…んっ…」
手が触れた感触に擽ったそうに身体を身じろいだが、すぐに元の寝息が聞こえてくる。
腕に感じる柔らかな体温は春の陽だまりに似ていて、微睡んでいたくなる。
触れった部分から優しく暖かいそれがゆっくりと心の奥まで沁み込んで、じんわりと胸が暖かくなる。
それと同時に、身体の中から力が抜けていくのがわかる。
不安も痛みも、疑心さえもこの温もりは包み込んで、自然と安堵する。
何も疑うことなく、恐れることもなく、真っ白で素直な自分がそこにいる。
もっと触れたくて、もっと彼を感じたくて、その胸に顔を埋めた。
トクン、トクン…と穏やかに脈打つ心音が聞こえてくる、
この温もりが限りなく自分とは違う存在で、けれど今限りなく自分に近い存在で
自分と違う時間を生きているこの音は、今同じ時を刻んでいる。
出来ることなら、もっと長い時を刻んでほしいと思う。
そしてその限りある時の中を、自分と共に重ねていってほしいと願う。
この心音の傍にあるものが、ずっと自分であればいいと…
瞳を閉じて心音に微睡んでいると、ふいに頭を抱きこまれた。
そして、擽ったそうに笑う声。
「…ふふっ」
「なんだ、起きてたのか?」
「うん。でも抱きしめてくれる腕が暖かくて、そのまま寝ちゃおうとしたんだけど」
そこで言葉を切って、またくすくすと笑いだす
「先生が珍しく甘えてくるのが嬉しくて、そのままにしてた」
「悪かったな」
「どうして?おれは可愛いなって思ったけど」
「お前さんな、10も年上の男を捕まえて可愛いはないだろう…」
「だって本当にそう感じたから…」
可愛い…と嬉しそうに囁きながら、髪を撫でられ抱きしめられる。
10も年下の彼に甘やかされている状況に、恥ずかしさと情けなさから思わずため息をつく。
それでも離しがたくて、誤魔化す様にその温もりの中に顔を隠した。
この温もりの前では、嘘も意地も、年上としての威厳も通じない。
あるのはただふたり分の心音と、柔らかな温もりだけ。
「もういい…寝る」
何を言っても、彼には勝てそうにない。
それなら素直に甘く微睡んだまま、何もかも忘れて眠ってしまいたい。
このまま眠りに落ちたら、心地良い夢を見られそうだ。
「おやすみなさい」
穏やかな声とともに、額に柔かな感触が触れる。
キスをされたのだと気付いたが、瞳を開くのも億劫でそのままにした。
トクン、トクン…と穏やかに刻む心音に導かれるように、ゆっくりと眠りへ落ちていく。
この音が刻まれる限りある時間の中で、彼とどれだけ一緒にいられるのだろうか
少しでも長く、傍にいられると願わずにはいられない。
[2回]
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