誕生日というものは、普段と違って何かと騒がしいものだ
すでに年齢的に祝われることに恥ずかしさを感じるときもあるが、だからといって嫌な気はしない。
そのせいか、おざなりな対応をしないでいた為、準備室へ戻ってこれたことにはすでにクタクタになっていた。
項垂れながら扉を開けると、ふわりとコーヒーの香りと王崎の笑顔に出迎えられた。
「先生、お疲れさまです」
「王崎、来てたのか」
「はい。コーヒーの準備もしておきました」
「そうか、ありがとさん」
穏やかに笑う王崎を癒されながら、扉を締めて準備室へ足を踏み入れた。
そんな疲れ顔の金澤を見守りながら、用意していたコーヒーをカップへ注ぐ。
それ手にしたまま、そっと金澤の傍へ寄り添う。
「はい、どうぞ」
「おう」
手渡されたコーヒーを一口に含んで、その暖かさにほっと息をつく。
沢山の祝福を受けることは嬉しくもあるが、あまり騒がしいのは好まない。
出来ることなら、傍にいても安心できる相手と共にゆっくりと時を過ごしたい。
そう思って傍らへ視線を向ければ、それに気づいた王崎が嬉しそうに笑っている。
「そうだ、おれも先生にあげたいものがあるんですよ」
「ほう?なんだ」
王崎の言葉に興味を惹かれ、少しだけ胸が踊る。
すでに沢山のプレゼントはもらったが、折角なら王崎からももらいたい。
「そのために…あの、少しだけ屈んでもらえますか?」
「こうか?」
指示に従うように少しだけ身を屈めると、傍にいた王崎がさらに身体を寄せてきた。
どこか楽しげに笑いながら、金澤の耳元へ王崎の唇を近づく。
「お誕生日、おめでとうございます」
可愛らしい囁く声とともに、頬にちゅっと柔らかな感触が触れた。
それから僅かに顔を離し、王崎が少し恥ずかしそうに笑う。
「やっと言えた」
その口づけの感触と擽ったそうに笑う王崎に、金澤の顔にも笑みが零れる。
「随分と可愛らしいプレゼントだな」
「喜んでもらえました?」
「あぁ、嬉しいよ」
「良かった。ちゃんとプレゼントは別に買ってありますから、楽しみにしててくださいね」
「夜のお楽しみってことか?」
「はい」
約束を取り付けていたわけではなかったが、この会話からすると王崎は夜も一緒にいてくれるらしい。
そのことが嬉しくて、同時に自らも王崎に触れたくなった。
コーヒーを机に置いて、目の前にいる王崎へそっと手を伸ばす。
その肩を引き寄せ、そっと腕の中へ閉じ込める。
「でもどうせなら、頬じゃなくて別な場所にも欲しいんだが…」
「今ですか…?」
「勿論」
「もう、しょうがないな。なら、もう一度屈んでください」
「ん…こうか?」
腕に王崎を出したまま、少しだけ身体を屈めてそっと瞳を閉じる。
そんな金澤に困ったように笑いながら、その頬へ手を添えた。
そして微かにコーヒーの香りがする唇へ、自身のそれを近づける。
「大好きですよ、紘人さん」
甘い囁きと一緒に、王崎の唇が柔らかに触れた。
その感触を味わいながら、改めて愛されている幸福に満たされていく。
こんな風に祝福されるなら、誕生日も悪くない。
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