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【止まり木】
ふたりきりの、静かな部屋。
なにをするわけでもなく、ただ寄り添いあって。
ただ、それだけですべてが満たれる、そんな空間。
「なぁ…王崎…」
壁に背中を預けて座る金澤と、身体を預け、その足の間に座り、包まれる腕の温もりにそっと瞳を閉じている王崎。
眠りかけていたのか、王崎はそっと耳に下りた囁きに少しぼんやりと瞳だけを金澤に向けた。
その瞳に、柔らかに微笑む金澤の顔が映る。
「どうして…俺なんだ?」
離れないように、しっかりと身体を抱きなおしてから。
ずっと不思議に思っていたことを、金澤は口にした。
「俺みたいなおっさんより、他に想う相手は幾らだっていただろう?」
本当は、聞いてはいけないことなのかもしれない。
この温もりを離したくないと想う気持ちが強くある。
けれど、それ以上に危惧していることもある。
「俺といたら、お前さんの未来に支障出るかもしれない…」
そこで一度言葉を切り、王崎を抱え直し、その髪にそっと頬を寄せた。
髪からは、彼の持つ雰囲気を同じく優しげな香りが鼻腔を擽り、柔かな髪が頬に心地いい。
「俺は、お前さんの未来を…奪うんじゃないかと」
純粋に、相手を思いやることのできる、甘い恋。
けれど、そこにはどんなに努力しても消し去れない「同性」の影がある。
まだ、世界にはばたく可能性だって秘めている彼を、自分の傷で縛るわけにはいかない。
しかし、この温もりを手放せない、臆病な自分がいるのも確かで。
「…怖いんだ…」
相手の未来を奪うことと、自分の傷で相手を縛ること。
誰よりも大切に想うから、誰よりも彼の世界が優しい音で満ちることを願う。
しかし、誰よりもそばにいて欲しいとも、その音を閉じ込めてしまいたいとも、願ってしまう。
矛盾する、二つの想い。不安が募るばかり。
「…紘人、さん」
空気に溶けてしまいそうなほど、甘く優しい声で名を呼ばれて。
落とした視線の先には、ふわりと咲き誇る微笑み。
身体をずらして、自ら金澤を抱きしめるよう腕を伸ばす。
「そんな、貴方だから・・・」
そっと耳に聞こえる程度の、小さな小さな声で。
不安がる子供をあやす様に背を撫でて、愛しいと想う気持ちを声に託して。
「優しく、傷つきやすい貴方の、止まり木になりたいと…」
辛いことも、悲しいことも、過去の記憶に刻まれて消せないものだ。
それは時に人を酷く疲れさせ、前に進む足の糧となってしまう。
「おれがしたくて、ここにいるんです。だから、平気…」
そっと頬に口付けて、頬を寄せて。
抱き返してくる腕の力と、切なげに名を呼ぶ掠れ声。
その温もりと声にこたえるように、自らも抱きしめ返した。
愛しい貴方の、傷ついた翼を癒してあげたくて
途方に暮れる瞳に、優しい世界を写したくて
誰よりも、貴方が…好きだから…