「大地…」
部の書類を整理している最中、ふいに律に話しかけられた。
なんだろうと不思議に思い、ペンを走らせるのを止める。
声の方へ振り返ろうとした瞬間、頬に訪れたのは柔らかな感触だった。
「…り、つ…?」
ふいに訪れた感触に、柄にもなく戸惑ってしまう。
頬に残る温もりから、律の唇が触れたのだと知る。
驚きのままま目を見開いて、律を見る。
仕掛けた当人はこちらの反応に少し不満げな表情を浮かべていた。
「どうしたの、いきなり?」
「…嫌だったか?」
「いや、嫌じゃないけど…びっくりしたというか」
突然キスをされたのだから、驚くに決まっている。しかも、相手はあの律だ。
自分からこういうことすることを仕掛けてくるなんて、とても想像もつかない。
ついさっきまで今後のオケ部について話し合っていた。
今考えてみても、その中にはこの行動へ繋がるきっかけはどこに見当たらない。
そういった行動に至る空気さえ、この空間には漂っていない。
けれど、目の前にいる律は相変わらず不満そうだ。
「…律からキスされるなんて、思ってもみなかったからさ」
「してはいけないのか?」
「そうじゃない。なんというか…」
勿論律から触れてくれたことは嬉しい。これは素直な気持ちだ。
自分の好意を抱いている相手から触れられて、喜ばない人間はいない。
それに自分から触れることはあっても、律から触れてくれることは少ない。
つまりかなり貴重な体験だった。…それがふいであったことが今少し残念にも感じる。
「…触れたいと思った」
「えっ?」
ふいに落とされた言葉に、思わず律を見つめ返す。
真っ直ぐに注がれる律の視線の中に、淡い熱を揺らめいていることに気づく。
「大地を見ていたら、触れたいと思った。触れたら、同じだけ触れてもらえるような気がした。だから自分から触れた。…ただ、それだけだ。」
それだけ言うと、律はすぐに視線を逸らしてしまう。心なしか、耳は少し赤い。
突然の行動を説明するには簡潔すぎる回答だが、そこに含まれた熱は言葉ほと単純なものではない。
「…は、反則だよ律」
あまりに熱烈すぎる告白に、思わずこちらまで顔が熱くなる。
触れてほしいから触れた。言葉よりもまず行動。
その即決すぎる答えがあまりに律らしくて、同時にとても愛しく感じる。
不満げな表情をしていたのは、彼の口付けに対して俺が触れようとしないから。
「ねぇ、今度は俺から触れてもいい…?」
そっと律の傍に身体を寄せて、優しく問いかける。
その問いに答えるようにそっと寄り添ってきた律を優しく抱きとめて。
こちらを見上げてきたその唇に、先ほど彼がくれた口付けを同じだけど温もりをそっと重ねた。
きみが触れたいと思った分、たくさん触れてあげるからね。
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らくがき(・ω・)
[4回]
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