「律の髪、綺麗だよね」
さらさらと指の合間を滑り落ちていく、真っ直ぐな深蒼の髪。
今日は珍しく寝ぐせがついていて、部室の椅子に座らせ、こうして触れながら真っ直ぐに直してあげている。
こんなに綺麗な髪なのに、その持ち主は一切興味がないのだから勿体ない。
律の髪は同性から見ても、その流れるような美しさについ見惚れてしまう。
「そうか?」
「うん。律は肌も白いし、女子から羨ましがられない?」
「いや、言われたことはないな」
実際そう思っていても、律の威厳的な雰囲気に声をかけにくいのだろう。
顔立ちだって容姿端麗。一度目にしたら忘れることが出来ないと思う程に。
律が女性だったら、きっと世の男性たちは放っておかないだろう。
男性であったとしても、放っておけない男がここにひとりいるわけだが…。
「ところで、まだ直らないのか?」
「もう少し。もう少しだけじっとしていて」
ずっと髪を弄られることに耐えられなくなったのか、律が少し戸惑ったような声をあげる。
本当はもう整っているのだけど、もう少し触れていたくて思わず嘘をついた。
いつもなら、こんな風に触れ合うことを中々許してくれないから、尚更惜しくなる。
さらさらと指から逃げていく感触さえ愛しくて、思わずその髪に口付ける。勿論、律は気付かない。
ふと、髪の合間から律の白い項が見えた。
陽に晒されることないそこは真雪のように白く柔らかで、思わず息を飲んだ。
触れたい衝動に突き動かされるまま、その真雪に唇で触れる。
「ッ…!」
途端、律の肩がビクリと跳ねた。
それに構わず、啄ばむように項に触れていく。
「だ、大地…何をっ」
唇の感触に抗うように、律が暴れ出すのを後ろから抱きしめて抑え込む。
それでも逃げようとするから、その項を甘く噛みついた。
その感触に、僅かに上ずった声をあげて律の動きが止まる。
「大地…」
「…ごめん」
静かな怒りを含んだ声で呼ばれて、ハッと我に帰る。
それでも律から離れるのが嫌で、項から唇を離して、ぎゅっとその身体を抱き締めた。
「律のこと見てたら…つい」
「校内ではこういったことは控えてほしいと言ったはずだが?」
「だからごめん。俺も最初はそのつもりなかったんだって。律…怒ってる?」
恐る恐る肩越しに律の方へ視線を向けると同時に、律またこちらへ振り返った。
その視線は少し怒っているようにも見えたが、こちらの顔を見るなり呆れたようにため息を零された。
「そんな顔されたら、怒るに怒れない」
もういい…と諦めたように再度溜息をついて、それ以上責められることはなかった。
「次から注意してくれ」と小さくそれだけ呟いて、プイッと顔を逸らされる。
それでも腕から逃げようとしない律に、思わず笑みが零れる。
「許してくれるんだ」
「今回だけだ。次同じことをしたら、今度は怒る」
髪から覗く律の耳が、微かに紅い。
触れ合うのが嫌なわけではないのは知っている。ただ、恥ずかしがりやなだけ。
髪も容姿も、その肌や声さえ美しいのに、その中身はまだ触れ合うことに慣れずとても可愛らしい。
「うん、気をつける。…でも、何もしない自信はないなぁ…」
その言葉に律が怪訝そうな表情で見上げるのに、ふわりと甘く微笑んで応えた。
「こんなに可愛い律に触れないなんて、勿体なくて出来ないよ」
途端、とても呆れたようにため息をつかれたことは言うまでもない。
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