「王崎~」
突然呼ばれて、王崎が振り返る。
視線の先には金澤がこちらを見ている。
「なんですか?」
というか、同じ部屋にいるのだからそんな大きな声で呼ばなくても…と思わないこともない。
当の金澤はというと、王崎が振り返ったのを確認すると、何かを決心したかのような表情でこちらへ歩み寄ってきた。
その表情の意味がまったく分からず、王崎は少しだけ困惑した表情をする。
やがて王崎の前に金澤がやってきて、寸前のところで止まった。
そして、王崎の肩を両手でつかむと、顔をさらに近づけてくる。
「王崎」
「は、はい…!」
ふいに近づいてきた金澤の顔に、王崎は思わず顔を後ろに引いてしまう。
それ以前に、なぜ自分が迫られているのかもわからない。混乱するなという方がムリである。
「結婚…してくれないか…?」
………………………………
「はぁ??」
若干の間が空いたのち、王崎の口から出たのは素っ頓狂な声だった。
あまりの事態に、手にしていた楽譜も落ちた。
「あの…意味がわからないんですけど…」
「なんでだよ。言葉のままじゃねぇか」
「あ…そのままの意味なんですか。…それはそれで大問題なんですが…。
というか、なんでこの流れでそれに至ったかが全く理解できないんですけど?」
「じゃあなんだ、「毎日俺の為に味噌汁作ってくれ」の方が良かったか?」
「いえ、セリフが気に入らないとかじゃないんです。そのセリフを言うに至った経緯を知りたいだけで」
「いいじゃねぇか、その辺は」
「え?それで片づけられちゃうんですか?一番大事なことのように思うんですが…」
会話にならない金澤とのやりとりに、ますます混乱してしまう。
そんなやり取りの中、王崎はふと大切なことを気がつく。
「ん?…あれ?もしかして、おれ…プロポーズされちゃってます?」
「されちゃってるな」
あぁ…されちゃってるんだ…、とやっと納得がいったところでまた気づく。
「…え、本気ですか?」
「こんな嘘ついて何が楽しんだ?俺はそんな趣味ないぞ」
あれ、今日四月一日じゃなくて…と思わず腕時計を見た。
残念ながら、四月一日ではなかった。嘘じゃないことはとりあえず理解できた。
本気か、本気なんだ…と、理解はできてももうどどうしたらいいか王崎は軽くパニックになっている。
「先生、知ってます?この国だと同性同士の結婚は認められていませんよ?」
「その辺は他の国に行けばなんとかなるだろ」
「あと、おれ王崎家の長男なんですが…」
「俺も長男だぞ。おまえさんのとこは下に男二人いるんだから、嫁に来たって問題ないだろう」
「でも両親に聞かないと…」
「おまえさん20歳過ぎてるだろ。親の許可はいらん」
すでに異国結婚に自分が嫁ぐことまで決められている。
王崎はもう一度時計を見た。やはり四月一日ではない。
夢?夢なのか?と一瞬疑ったが、金澤に掴まれた肩の感触に現実だと知らされる。
軽く、泣きたい気分になった。
「…おれがお嫁さんなのはなぜですか?」
「おまえ、俺にウェディングドレス着せたいのか?俺はそんな趣味ないぞ」
「え?おれが着るのはありなんですか?…え、ちょっと待ってください。なんで挙式の話」
「大丈夫だ、おまえさんなら似合う。それにいつも似たようなの着てるじゃないか」
「え、それは燕尾服の話ですか?燕尾服ってドレスに似てますか?どこがですか?色ですか?」
泣きたい…。王崎は本気でそう思い始めた。というか、もうすでに目頭が熱い。
パニックになりすぎて、自分でも何を言ったらこの事態から抜け出せるのかさえわからない。
とりあえず、このままじゃドレスを着せられるのか。着れるのかな…あれは女性用でしょ?
燕尾服とドレスって似てるかな?その前に、おれもドレスを着る趣味はないんですけど…。
というか、なぜこんなことになっているのか。
「なんで、おれ…プロポーズされちゃってるんですか…?」
そこだ。それが抜けている。
「なんでって、それは…」
今まで肩にあった手に急に引き寄せられ、金澤の腕の中へ飛び込む形になる。
「…おまえさんが好きだからに、決まってるだろ?」
そっか…。
好きなら…しょうがないの、かな?
**********************************************************
金やんに「結婚してくれ」って言わせたかっただけ\(^o^)/
PR